職場で信頼される感情の適切な伝え方・受け止め方
はじめに:職場で感情を扱うことの重要性
職場の人間関係を築く上で、感情は非常に重要な要素です。自分の感情を適切に表現し、相手の感情を理解することは、誤解を防ぎ、信頼関係を深めるために不可欠です。特に、論理的な思考が中心となる業務に就いている方の中には、感情をどう扱えば良いか戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、感情は人間性の核であり、プロフェッショナルな関係性の中にも存在します。感情を無視したり、不器用に扱ったりすることは、スムーズな連携や建設的な議論を妨げる原因となり得ます。
この記事では、職場で感情と向き合い、信頼される関係性を築くための、自分の感情の伝え方と相手の感情の受け止め方について、基本的な考え方と実践のポイントを解説します。
自分の感情を適切に伝える
感情は、単なる個人的な感覚ではなく、状況に対する正直な反応や、相手へのメッセージを含む場合があります。しかし、感情をそのままむき出しにすることは、時に職場の雰囲気を悪くしたり、相手を不快にさせたりします。重要なのは、「適切に」伝えることです。
なぜ感情を適切に伝える必要があるのか
- 誤解の防止: 自分の状況や考えだけでなく、それに対する感情(例:「少し不安を感じています」「大変助かると感じています」)を伝えることで、相手はあなたの立場や深刻さをより正確に理解できます。
- 信頼関係の構築: 自分の内面の一部を正直に伝えることは、相手からの共感や理解を生み出し、心理的な距離を縮めます。
- 問題の早期発見・解決: 不満や懸念といったネガティブな感情も、適切な形で伝えることで、問題が大きくなる前に解決の糸口が見つかることがあります。
感情を適切に伝えるための基本
- 状況と感情をセットで伝える: 「〇〇という状況に対して、私は〇〇と感じています」というように、具体的な事実や状況と、それに対する自分の感情を明確に結びつけて伝えます。感情だけを羅列したり、曖昧な表現を使ったりすると、相手は何に対してそう感じているのか理解できません。
- 例: 「この納期でタスクを進めるのは、現在の状況を見ると少し難しいと感じています。」
- 例: 「〇〇さんのご協力でスムーズに進み、大変ありがたく感じています。」
- 「I(アイ)メッセージ」を使う: 自分の感情や考えを主語「私」で伝える手法です。「あなたは〜だ」と相手を主語にすると、非難や断定と受け取られがちですが、「私は〜と感じる」「私には〜に見える」と伝えることで、あくまで自分の内面の表現として、相手に受け入れられやすくなります。
- NG例: 「あなたの連絡が遅いせいで、仕事が滞っている。」
- OK例: 「〇〇さんからの情報が確認できず、次の作業に進めなくて少し困っています。」
- 冷静な時に伝える: 感情が高ぶっている時は、冷静な判断や適切な言葉選びが難しくなります。一度落ち着いてから、伝えたい内容を整理し、落ち着いたトーンで話すように心がけます。
- 目的を意識する: なぜその感情を伝える必要があるのか、その目的(例:状況を改善したい、協力を仰ぎたい、感謝を伝えたい)を明確にし、目的に沿った伝え方をします。
相手の感情を適切に受け止める
職場の人間関係においては、相手が何を感じているのかを理解しようとすることも同様に重要です。相手の感情を否定せず、適切に受け止める姿勢は、相手からの信頼を得るために不可欠です。
なぜ相手の感情を受け止める必要があるのか
- 相手の尊重: 感情を含めた相手の存在を認めることは、相手を尊重することにつながります。
- 問題の本質理解: 相手の感情の背景には、解決すべき問題や、抱えている困難が隠されていることがあります。感情を受け止めることで、問題の本質にたどり着きやすくなります。
- 協力的な関係構築: 感情を理解しようとしてくれる相手に対し、人は心を開きやすくなります。これは、建設的な議論や協力体制を築く上で土台となります。
相手の感情を適切に受け止めるための基本
- 傾聴の姿勢を示す: 相手の話に耳を傾け、相槌を打ったり、うなずいたりすることで、「あなたの話を聞いていますよ」という姿勢を示します。相手の感情的な発言に対しても、まずは遮らずに最後まで聞くことが重要です。
- 感情に名前をつける(ラベリング): 相手が言葉にしにくい感情や、言葉の裏にある感情を推測し、「〜ということですね」「〇〇と感じていらっしゃるのですね」のように、相手の感情を代わりに言葉にして確認します。これは、相手が自分の感情を整理するのを助け、理解しようとする姿勢を示すことになります。
- 例: 「この変更に対して、少し不安を感じていらっしゃるということでしょうか?」
- 例: 「締め切りが早まって、大変だと感じているのですね。」
- 共感を示す: 相手の感情そのものに同意できなくても、「そのような状況でしたら、そう感じるのも無理はありませんね」「大変な状況だったのですね」のように、相手の感情に寄り添う姿勢を示します。これは「同情」ではなく、相手の感情の存在を認める「共感」です。
- 感情的な言動に引きずられない: 相手が感情的に話している時でも、その感情に引きずられて自分も感情的にならないように注意します。冷静さを保ち、相手の感情の「内容」ではなく、「感情が示していること」(例:困難、不満、喜びなど)に焦点を当てて理解しようと努めます。
- 事実と感情を分ける: 相手の話の中から、客観的な事実と、それに対する主観的な感情を分けて聞き取ります。感情的な表現の中に隠された事実や具体的な要求を見つけ出すことが、問題解決につながります。
- チャットツールなどテキストコミュニケーションの場合、感情が伝わりにくいため、絵文字やスタンプなどを適度に利用したり、「〇〇さん、ちょっとお話できますか?」と声をかけてオンライン会議などで直接話すことも有効です。
実践のポイント
- まずは小さな感情から: 自分の「嬉しい」「助かる」といったポジティブな感情や、「少し気になる」「少し困る」といった小さなネガティブ感情から、意図的に言葉にして伝える練習を始めます。
- 状況や相手を選ぶ: 感情を伝える・受け止める練習は、比較的関係性を築きやすい同僚や、理解がありそうな上司・先輩から始めるのが良いでしょう。
- 非言語コミュニケーションも意識する: 声のトーン、表情、姿勢といった非言語的な要素も感情を伝える上で重要です。これらを意識することで、より正確に感情を伝え、また相手の感情を読み取りやすくなります。
- 振り返りを行う: 感情的なやり取りがあった際には、後で冷静に振り返り、どのような伝え方・受け止め方が適切だったかを考えることで、次に活かすことができます。
まとめ
職場で信頼される人間関係を築く上で、感情の適切な扱い方は避けて通れないスキルです。自分の感情を状況と結びつけて丁寧に伝えること、そして相手の感情を否定せず傾聴し、共感を示すこと。これらの基本的な姿勢と実践を意識することで、職場のコミュニケーションはよりスムーズになり、お互いへの理解と信頼が深まります。
感情は決して「非論理的なもの」として排除すべきではありません。むしろ、感情は人間の動機や関心の重要な源であり、それを理解し適切に扱うことが、より豊かな協働関係を築く一助となります。日々の業務の中で、少しずつ意識して実践してみてください。